その飲み屋は完全に住宅街の中にあり、
店構えも完全に普通の家で、小さな看板がなければ飲み屋とはわかりません。
店の前を通るたびに”怪しいよね・・・・”って言ってたのですが、
今はその言葉を謝罪と共に撤回致します。
桃頃も某嫁も酒がほとんど飲めないのですが、
酒も飲めないし、普段から怪しいって言っている店にアポもツテもなく入るってことは、
某嫁もかなり追い詰められていたのでしょう。
家のある住宅街は全くの暗闇で、マグライトがなかったら、壁やガードレール、電柱などに
突っ込んでしまっているところだったと思います。
それ程暗く、人気もなく、不気味に静まり返ってました。
その飲み屋の扉を開けるといきなり玄関が現れて、
”靴を脱いで入るのか?”と思いましたが、奥から明かりも人の気配もありません。
うす暗い中で目が慣れてくると、左手にさらに扉があることに気が付きました。
かなり建て付けが悪く、扉自体は軽いのにめちゃくちゃ重い扉を開けると、
そこには見慣れた某嫁の姿がカウンター席にありました。
隣には向かいの家のM園さんがおり、カウンター越しにはママらしき方がおりました。
ママが「あら、うちのとーちゃんじゃなかったわ」と開口一番。
「すみませんでした。桃頃です。うちの嫁が避難したって聞いたもので・・・・」
「あら~、あそこの家の方でしょ。知らなかったわぁ、こんな方が住んでたなんて。
1人暮らしだって思ってたから・・・・」
一軒家に1人暮らしと思われていただなんて・・・・・知りませんでした。
話によるとママの旦那さんはまだ仕事場から戻ってこれていないそうで、
帰りを待っているとのこと。
しかし、たった100mも離れていないのに揺れただけで普段の生活を送っているところと
真っ暗闇のところって、まさに明暗を分けるというのはこのことなのかと思いました。
そこで今までの状況や世間話をしながら、おにぎりや味噌汁を頂き助かりました。
漬け物が食べられない桃頃なのですが、梅干とふりかけみたいな混ぜご飯のおにぎりを
美味しく食べられたことや、人の手料理が苦手な桃頃が暖かい家庭的な味噌汁を頂けたのは
ひとえに近所の方の暖かさゆえだったのではないかと思います。
もう23時半くらいになってしまったので、御代を払って家に帰ろうとしたのですが、
ママもM園さんも”そんなのいい、いいよ”と受け取ってくれません。
M園さんは客なので受け取る必要はないのですが、一緒になっていいんだよそんなのって言ってました。
こういうこともなければ知り合うこともなかっただろうしと。
ありがたいです、ホントに。
真っ暗な家の中をマグライトで照らしながら、1階、2階と点検しましたが
小物類が落ちているだけで異常は無さそうなのでホットしました。
水道とガスは生きていたので、お湯を沸かしてコーヒーを準備している間、
ガスコンロの火をずっと眺めていました。
冷たい水で顔を洗い、着替えを済ませて冷え切った布団にもぐりこみ、
真っ暗な部屋の中で、改めでお互いの無事を確認できてよかったと思いつつ眠りにつきました。
夜中の2時ぴったりにふと目が覚めて、トイレに行き用を足そうとしたとき、
トイレの窓の外が一瞬光ったように思えました。
ん?と思った瞬間、トイレの排気ファンが回り始め
”ツイタ!!!”と思い、急いで1階に下りてゴーゴーいいながら熱風を吐き出していた
ドライヤーやつけっぱなしになっていた照明を消しました。
某嫁を起こし、復旧したよと言うと寝ぼけた様子で”ホントに?”と返ってきました。
これで一応、安心して眠ることができそうです。
これからどうなってしまうのかわかりませんが、一旦は普段の生活が送れると思いました。
つづく